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「叱れば叱るほど問題行動は続く」失敗ばかりの部下を叱っても無意味!アドラーに学ぶマネジメント術【岸見一郎】

『アドラーに学ぶ 人はなぜ働くのか』より #2

■叱っても甲斐はない

 叱れば部下は奮起すると思う人はあるでしょうが、そのようなことはまずありえません。叱ると対人関係の心理的な距離は遠くなってしまいます。アドラーは怒りについて、それは「人と人とを引き離す感情」であるといっています。叱るけれども怒ったりはしない、叱ることと怒ることは別であるという人はいます。怒ってはいけないが叱ることは必要であるという人もいます。しかし、人間は怒らないで叱れるほど器用ではありません。叱る時には必ず怒りの感情を伴っているといって間違いありません。

 そこで、部下に改善すべき点を教えようと思っても、上司と部下との距離が遠ければ、部下は上司のいうことを素直に受け止めることができなくなります。上司は知識が足らず、経験も十分でない部下を指導しなければなりませんが、上司がいっていることが正論であっても、あるいは、正論だからこそ、部下は上司が語る言葉を素直に受け止めることができず、反発してしまうのです。

 感情的に叱らなかったとしても、個々の失敗について指摘するのではなく、「君には失望した」というような人格を否定するような言い方をすると、部下は働く意欲をなくしてしまいます。

 部下は、上司から叱られるのが怖いので、失敗をしないよう慎重になるかもしれません。自発的に創意工夫をしようとはしないで、自分に与えられた必要最低限の仕事しかせず、指示を待ち、自分からは動かない「イエスパーソン」になるかもしれません。そのような部下がいるとすれば、上司自らが作り上げているのです。

 上司が部下のすることをすべて指示し、部下もそれに従うというのであれば、大きな問題は起きないかもしれませんが、そのようにするくらいなら上司が部下に任せずに自分で何もかもすればいいのです。

 しかし、実際にはそのようなことはできません。そうすることができるだけの時間は上司にはないからです。それならば部下に仕事を任せるしかありません。部下の方は時には前例がないことをしなければならないことがあります。

 阪神大震災の時に、私の友人である医師はボランティアとして神戸に入りました。学校の体育館が避難所になっていましたが、避難生活が続き、皆が風呂に入れないことを知った彼は体育館に簡易風呂を設置しようとしました。

 そのために役所に許可を求めようとしたところ、前例がないという理由で風呂を設置してはいけないといわれました。それでも、彼はその決定に従いませんでした。目の前にいる風呂に入れない人を救いたいと思い、あえて役所の決定を無視しました。

「ダメだといわれ、辞めさせられても、もともとボランティアだから」と友人は当時のことを話してくれました。

 上司でも部下でも、たとえ前例がなくても、自分の責任で適切な判断を下さなければならないことはあります。

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岸見一郎

きしみ いちろう

哲学者

哲学者。1956年、京都生まれ。京都大学大学院文学研究科博士課程満期退学(西洋哲学史専攻)。専門の哲学に並行してアドラー心理学の研究をしている。著書に『嫌われる勇気』『幸せになる勇気』(以上、共著、ダイヤモンド社)、『アドラー心理学入門』『アドラーに学ぶ  人はなぜ働くのか』(KKベストセラーズ)、『生きづらさからの脱却』(筑摩書房)、『アドラー 人生を生き抜く心理学』( NHK出版)、『人生を変える勇気』(中央公論新社)、訳書にアドラーの『個人心理学講義』『人生の意味の心理学』(以上、アルテ)など多数ある。

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